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コレクション

その11 都市対抗野球大会 黒獅子旗

一枚の色あせた旗がある。中央に描かれているのは一頭の黒色の獅子。この勇壮な黒獅子はかつて、獲物に飛びかからんとするその姿のように、タテガミをなびかせて飛び越えていた。激しく波立つ、広大な海を――。

社会人野球の最高峰、都市対抗野球大会の優勝チームに贈られる黒獅子旗。その初代の旗は、実に壮大な運命をたどった。戦前は外地チームも参加していた都市対抗。しかも、強かった。第1回大会の大連市・大連満州倶楽部から3年連続大連市のチームが優勝を果たしている。

戦前最後の大会となった第16回(42年)も黒獅子旗は日本海を越えた。頂点に立ったのは京城市(現ソウル)・全京城だった。しかし、戦争の激化で大会は中止、朝鮮半島へ飛び渡った黒獅子も姿をくらましてしまった。

46年、復活の第17回大会で優勝した岐阜市・大日本土木に贈られたのは賞状のみ。だれもが旗は戦争の混乱の渦に消えてしまったと思っていた。ところが、黒獅子は生きていた。全京城の中堅手として活躍した秋山光夫氏が、必死の思いで日本に持ち帰ったのだ。京城電気株式会社に保管されていた旗を、進駐軍の接収の前に引き出した秋山氏。「絶対に日本に持ち帰る」という決意でとった行動は、なんと旗を自身の腹に巻きつけて隠していくというものだった。京城を脱出し、一番の心配だった釜山での乗船時の荷物検査もなく、3日間の旅路の末に故郷の香川・丸亀に無事に到着。旗は、大会を主催する毎日新聞社に返還されたのだった。

黒獅子に染み付いた、大会の伝統を守り抜こうとするその強い意志は、選手たちの魂へと乗り移り、ファンの心を熱くさせてきた。現在の黒獅子は99年第70回から使われている3代目。9月1日、東京ドームにて第76回大会の王者に手渡される。

(文責=編集部)

掲載号/週刊ベースボール 2005年9月12日発行 第39号
取材協力/財団法人野球体育博物館

※記事は掲載時のまま掲載しています。記録等は掲載当時の情報に基づいています。また、会期の終了した企画展や、現在は館内で展示していない資料を紹介している場合があります。ご了承下さい。

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